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柴田明彦、巨艦朝日の懐に入る/シリーズ「電通イズムその功罪」-5

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シリーズ「電通イズムその功罪」⑤

前回、朝日新聞担当への異動によって、パワーゲームの中に否応無く放り込まれ苦悩していた柴田が、新しい環境でどの様にして市民権を得ていったのか、今回は人の懐に入り込む柴田流人たらし術を見ていきましょう。

◆市民権の獲得

「トレードオフ」とは、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという状態・関係のジレンマを意味する。ただし、ここで大切なことは順番だ。新しい何かを掴み、古い何かを捨てるのが安心・安全なことは至極当然。例えば転職。現状の雇用条件より少しでも条件面の良い新しい仕事を見つけてから、現在の仕事にお別れを告げることに異論を申し上げるつもりはない。しかし、僕は違う。まずは手放す。そして新しい何かを掴み取る!それが僕のトレードオフの順番であり掟と自己に課している。だから辞表を叩きつけ、電通を辞める時もそうした。

さて本線に戻そう。テレビ担当から新聞担当部門に異動し、約半年の新聞人養成期間を経て朝日新聞担当になったことは前回述べた。さまざまな軋轢がある中、この点も前回記したが、新聞ワールドという新天地での市民権獲得が始まった。国家が国民に兵役に服する義務を課す制度が徴兵制であり、志願兵制度の対義語だ。今回の人事異動をそのように“無理やり意味づけ”自分自身を納得させた。先ずは“兵役”という義務を果たす。権利の主張はその後に預ける。市民権の獲得とはそのようなものだと考えている。

割付担当をクビになり、改めて巨艦朝日新聞に立ち向かう戦略を考え、以下の施策を打ち立てた。あとは僕なりのPDCAサイクルを回すだけ。

◆個人属性を押さえる

朝日新聞広告局員(4本社1支社体制。全体で約400人)の個人属性(入社年次、年齢あるいは干支、最終学歴、出身地、自宅住所、家族構成、趣味、酒の趣向、馴染みの店、信条、愛読書、ロールモデル、血液型、動物占いなどなど)を“完膚なきまでに”調べ上げる。元々CIAに代表される諜報機関に興味があったので、正直言うとこの作業は楽しかった(笑)。ちなみに世界の諜報機関ではイスラエルの「モサド」が好きだ。学生時代に読んだ落合信彦の著書「モサドその真実」による影響が強い。電通を志願した理由も実はそこにある。この話題だけでも一晩語り尽くせる。しかし、モサドが好き!と公言すると“危ない奴”と警戒されるので、ここだけに留めて欲しい(爆)。お約束の脱線。本線に戻す。

僕は記憶力に全く自信がない。忘却力では誰にも負けない位だ(自慢にもならない)。しかし、全広告局員約400名の入社年次を頭に叩き込むのに、さして時間を要さなかったことは自分ながら驚いた。「覚える」という行為を単なる消化作業とすることなく、覚えなくてはならない的な強迫観念を持たずに、その意味合いを持たせたこと(センス・メイキングと言うらしい)が勝因かも知れない。また、調べた個人属性(情報)をリアルな場面(打ち合わせ、会食、移動空間、ゴルフ、宴会等)で引き出すことによって、更にデータベースが強固になっていく真実に気が付いた。情報という単なる“無機質な記号”を有機化して脳内に染み込ませる!と言えば理解できるだろうか!?理解不能な場合はお問い合わせください。一献かたむけながら談義しましょう。どこにでも出向きます。もちろん費用はご負担いただきますことご承知おき下さいませ。と、毎度お決まりのセリフで申し訳ございません。

◆森の前に「林」を押さえる

朝日新聞社広告局という生態系に生息する生き物(*朝日新聞の皆様ごめんなさい!)は、前項施策で押さえた。次は広告局という「組織をグリップ」しなくてはならない。新聞社は購読料(販売局)と新聞広告掲載料(広告局)という“2大”収入部門で成り立っている。*事業等違う費目での収入もあるが売上構成比は低い。まずは、その一大収入部門である広告局を分析することから始める。売上数字の構成内容、決定に至るメカニズム(役職ごとの決裁権、各種会議内容、パワーゲーム等)、外勤広告局員の営業動静(対広告主、対広告会社)、人事情報、取引のある全広告会社動向(情報戦争)などをキャッチアップしていく。ひとたび広告局に足を踏み込んだら全身を高感度アンテナにする。特に競合他社である博報堂の動きには細心の注意を払う。博報堂の朝日新聞担当者が広告局員と話している時は、たとえ離れていても“唇の動き”から会話内容を推察するが如く(スパイ大作戦!?)。視界に飛び込んだ事象を放置することなく“後追い”で構わないから真実に迫る。会議室に盗聴器を仕掛けることは出来ないが、会議終了後の取材(この秘伝のワザは特許申請したい位だ)で概要を把握することは可能だ。時効と勝手に申し上げて事例を紹介させていただく。当時広告担当役員T氏行きつけの店「桔梗」や、幹部が使用する有楽町の「談話室」で“諜報活動”を繰り広げ、人事情報を収集していたことを白状する。

無類の人事情報好き!は新聞人の特徴とも言える。各人の“見立て”を訊いているだけで痛快過ぎる。タクシーの運転手さんから入手した新聞社の大別話が面白い。移動車中“人事話”をしているのは朝日か読売新聞。“給与話”は毎日か産経新聞だそうだ。何となく理解できる気がする。いずれにしても朝日新聞の皆様は人事情報が好きでたまらない。であるならば、人事情報という分野においてもアドバンテージを取らなくてはならない。ましてや博報堂に負けるわけにはいかない。担当先媒体社の人事情報収集が後手に回ったら、電通マンは“簀巻き”で東京湾に流されてしまうことを付記しておく。

◆朝日新聞という「森」を押さえる最初の一歩

朝日新聞縮刷版で1年間の「社告」(新聞社からのお知らせ)をコピー、大学ノートに張り付け、催事ごとに確認したい項目を列記し、当該部門に取材をかけ、主催・後援する総ての文化催事・スポーツイベントを把握することから始めた。当時、企画部門があり、企画1部は文化催事、企画2部はスポーツイベントを扱っていた。ここの部員は社会部、科学部、学芸部(*)、運動部(*印は当時の部名)など編集局出身者で構成されている。電通を含め広告会社はどこも立ち入ることのない部門だった。否、広告局という玄関口を跳び越えて、広告会社が朝日新聞他部門に足を踏み入れることはご法度!というのが不文律の掟。僕が攻めようとしている部門は、いわば未開拓の新大陸。フロンティアスピリットが燃えまくる。

朝日新聞は政治部と経済部出身者がテレコで(交互に)社長に就任してきた。編集局で一番部員が多いのは社会部だが、社会部出身者が社長に就任したことはなかった(過去形)。社会部は“本丸”でトップを取れない。ならばキャスティングボードと外郭(テレビ朝日系列ほか関連団体)での高位ポジションを獲得する!と考えてきたのではないだろうか(僕の邪推。だけど限りなく核心を突いているのではないかな)。新聞人は無類の人事好き!と述べた。編集種族も然り。「オレの次はX、Xの次はY、Yの次はZ・・・」と“数珠つなぎ”あるいは“永遠の樹系図”のように語る多くの編集局幹部と出会った。もし、この“見えざるライン”を把握できれば、将来の社長ラインにコミットすることが可能になる。このフォーメーションは中期目標に置いた。“千里の道も一歩より”と表現する自分の陳腐さに失笑しつつ、短期目標を設定した。政治部、経済部、社会部が編集局主流3部だとするならば“バルト3国”ならぬ運動部、学芸部、科学部に照準を定めた。なぜこの3部にしたか!?僕なりの戦略ビジョンがあったからだ。

~続く~

(柴田明彦)

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