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虎口を逃れたと思いきや竜穴に入る柴田明彦/シリーズ「電通イズムその功罪」-8

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人事異動というノンフィクションドラマ

電通時代の柴田が「3大不人気部署」と社内で揶揄されるフジテレビ、朝日新聞、新聞局地方部に次々異動になったのは、果たして人事にどんな意図があったのか知る由もありません。しかしながら、このシリーズの回が進むに連れて柴田のタフさが際立ってきます。第8話となる今回のエピソードをお読み頂き、ある日の電通のリアルを感じて頂ければ幸いです。(編集記)

◆「初恋の味」カルピスと共に異動

そろそろ任期満了の時期が近づいてきたと感じていた頃、次の異動先に思いを馳せた。“〇ウシュビッツ”と言われたフジテレビ担当、“白髪になるかイ〇ポ”になるかと言われた朝日新聞担当、共に電通新入社員“不人気三大部署”の2部門であることは既に記した。二つの部署を通じて親しくなった広告主(広告会社の人間はクライアントと呼ぶのが好き)がある。それは“初恋の味”カルピス(このキャッチコピーは昭和だよな)。

フジテレビ担当時代は「大江戸花火祭り」の特番を提供していただいた。花火会場である荒川の河川敷でカルピスの宣伝(カルピスでは宣伝部ではなく広告部という名称)の方々と一緒に「どぶづけ」(夏のイベント会場で大型容器に飲料と砕氷を流し入れた状態のクーラーボックスのこと)を仕込んでいた。と、急に暗雲が立ち込めピカッと光った。瞬く間に雷が発生。“ナイアガラの滝”という仕掛け花火に落雷し次々と暴発した。あの凄まじい光景は忘れない。

朝日新聞担当時代は、三大マラソン(日本人は三大〇〇表現が好きだね)と呼ばれた「東京国際女子マラソン」「福岡国際マラソン」「札幌国際スキーマラソン」の担当をしていた。中でもスキーマラソンは協賛社セールスに苦戦。僕が担当になった時は、ネスレがオフィシャル飲料の協賛を下りた直後だった。この物件もカルピスに協賛していただいた。以来、毎年2月は札幌の羊ヶ丘で開催されるスキーマラソンの立ち合いが恒例行事となる。大会場ゲレンデのゴール付近でお湯を沸かし、完走した参加者に「ホットカルピス」を手渡す。ちなみにホットカルピスのサンプリング企画は、その後各地に拡散した(もとい拡散させた)。本件に関してはいずれ触れることになる。乞うご期待。

イベントの立ち合い業務は設営・搬入⇒本番⇒撤去・搬出が基本的な流れ。イベント業務は開催に至るプロセスでほぼ完了するようなものかも知れない。あとは本番当日の好天を祈るのみ。地方開催イベントの楽しみは郷土料理と地酒。立ち合いに来るお得意様も、それを楽しみにしていると言っても華厳の滝ではない!すいません!過言ではない。“前夜祭”と称して、“反省会(後夜祭)”という大義名分を掲げ呑む。お得意様の満足度を高めるため(お得意様を神の如く崇め、迎合する風習はビジネス界に散見するが、広告業界はハンパない!)、電通マンという種族は宴席におけるパフォーマンスにも徹底的にこだわる。イベント開催会場、宿泊エリアの飲食マーケティングを怠らない。全国チェーンの居酒屋などご法度。観光客人気のお店なども除外する。地元住民がこよなく愛する店を探し当てることが重要。1軒ごとガラガラと開けて、店内を覗き込む。この際の常套句は「連れは来ていますかね??」。適当な方便を振りまきながら瞬時に店内を物色する。メニュー(品揃え)、値段、席レイアウト、雰囲気が評価ポイント。場合によっては“ゼロ次会”と称して試食することも大切。そして本番の宴会時に一言添える。「〇〇街の飲食店〇〇軒をすべて実地検証して当店を選定しました」。このようなフィールドサーベイ(実地検分)が宴会のパフォーマンスを高める(鼻息!)。

朝日新聞主催「三大マラソン」の一つである福岡国際マラソンはマラソン界における老舗レースだ。放映権はNHKが持っていた。1987年開催第22回大会の視聴率は何と41.0%!!現在に比べ娯楽、エンターテイメント等コンテンツが少なかったとは言え、驚異の視聴率だ。さて今回も時効(僕が勝手に決めているだけ)と言うことでプチ暴露しちゃう。このキラーコンテンツに目を付けた御仁が朝日新聞にいた。その御仁は編集局運動部出身のM企画委員。三大マラソンの仕掛け人でもある。僕はMさんとの出会いで“政治”とは何か!?を学んだ。“朝日新聞版田中角栄”といったイメージを持ちながら、Mさんの一挙手一投足をつぶさに観察し続けた。ある日Mさんが僕に囁いた。「福岡国際マラソンの放映権をNHKからもぎ取って九州朝日放送(テレビ朝日系列)に移管する」。この時のNHKとの放映権交渉の秘話はここでは話せないなあ・・。ご興味がある方は一報ください。民放化は、スポーツビジネスにとって企業が参画するメリットが増大する好機。NHKの放映は、少しでも企業色を出さないカメラワークが問われる。逆に言えば広告会社は“自然体のアングル”にどれだけ企業色を入れ込むか!といった闘いが至上命題となる訳だ。ゴールを切る瞬間は絶好のカメラアングル。ゆえにゼッケン、ゴールテープに企業名を入れれば格好の露出ポイントとなる。またその瞬間を押さえるテレビカメラはゴールの後ろに固定されているので、陸上競技場においては第4コーナーに掲出する横断幕が“俯瞰した自然の描写”の中に溶け込む。そのような広告会社の“努力”も民放化されれば軽減される。

さて、Mさんの囁きを(完全にインサーダー取引だよね)聞いた僕は速攻カルピスに飛び込む。「マラソンは高視聴率が獲れるキラーコンテンツです。NHKが放映している段階でオフィシャル飲料として参画しましょう。民放化されれば競合他社の飲料メーカーが名乗りを挙げてくることは必至。なる早で既得権を確保しないと!」と吠えまくり協賛をいただく。しかし、ここで問題が勃発。福岡陸連が、乳酸飲料はマラソンに不適合(カルピスを飲んで走ると腹痛を引き起こすなどなど)とイチャモンをつけてきた。逆風に僕は燃えるタチ。カルピスに出向きコンク(カルピスの原液)とエビアン(当時はカルピスが販売)をそれぞれ1ケース受け取り、その足で福岡に向かい、福岡陸連医事委員を委託されているS先生の病院を訪ねる。当時カルピスウォーター(コンクを希釈した状態)がなかった。エビアンで何段階も希釈しながら詰め寄り、ようやく合意点を見出す。スポーツイベントの舞台裏にもさまざまなドラマがあることをご理解頂ければありがたい(経験者談)。

ここで重要な点を付記する。朝日新聞におけるカルピスの「扱い」は朝日広告社という点。新聞における「扱い」は神聖化された聖域のようなもの。何人たりとも侵犯できない「掟」だ。札幌国際スキーマラソン、福岡国際マラソンなど次から次へと電通の若造“紙担”(新聞社担当の意味。ちなみにテレビ局担当は極端、もとい「局担」と呼ぶ)に奪取され凄まじいハレーションを引き起こしていた。無理もない朝日広告社は朝日新聞社の系列広告会社であり歴代社長は広告局OBが就任している。現役広告局幹部の頭上には相当量のクレーム爆弾が炸裂していた模様。と傍観者的発言をする確信犯のボク(笑)。テレビ担当部署で電通マンの第一歩を踏みしめ、しかも“〇ウシュビッ”と揶揄されたフジテレビ担当部において、扱いは奪取と被奪取の連続だった。虎視眈々と競合他社の扱いを狙う日々。新聞担当部門に異動して最初に感じた違和感が扱いに対する社内外の姿勢だった。

さて冒頭に戻る。二大最悪部署の“服役”を終え、晴れてシャバの空気が吸えると感じていた頃「新聞局地方部」異動の内示を受けた。ちょっと待て!三大最悪部署グランドスラム達成じゃないか!!カルピス担当かANA担当(この件は後日改めて述べる)の営業になる!と想い描いていた淡い夢は木っ端みじんに砕かれた。

と同時に1本の電話を受ける。「西日本新聞のH田です。カルピスのT橋副部長から地方部に異動される旨伺いました。ぜひ一献かたむけたく」。地方部に異動する前の朝日新聞担当時代に初めて地方新聞社の方と名刺交換したのが西日本新聞のH田さんだ。カルピスと一緒に出掛けるか・・。続く。(柴田明彦)

____

と今回も良いところで終わりになってしまいました。

次回が楽しみです。

ところで下の画像、以前にいちど柴田がブログに使いたいと言っていたのですが、あまりに内容と合わないので却下した事があるのです。今回、またしても持ち出してきたので使うことにしました。笑。

柴田には、こんなお茶目な一面があるんですよ。

みなさんのお好みは何番ですか?

3人とも広告会社にはいそうな雰囲気。一人選ぶなら2かな?笑。

3人とも広告会社にいそうな雰囲気。一人選ぶなら2かな?笑。

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