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柴田明彦より、かつて共に働いたX君への手紙/シリーズ「電通イズムその功罪」-9

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獲物を狙うが如く眼光鋭い電通時代の柴田

当コラムの人気シリーズ「電通イズムその功罪」の第9回が届きました。
今回は番外編として柴田が電通時代、部長を勤めていた部署で共に仕事をしていた部員(部下の事。柴田がこの言葉を好まないためこの呼び方にします)◇◇氏の昇格を知り、書いた手紙です。キャリアデザインについてのヒントも溢れていますので、どうぞお読みください(編集記)

シリーズ「電通イズムその功罪」⑨

今回は時系列を跳び越えた番外編。前回の続きを期待されている方(もしいらっしゃれば・・だけど)ゴメンなさい!部長時代の部員(ちなみに僕は“部下”というワードを好まない。よって使うことはない)が昇格したとの連絡があった。怒涛の職場環境(笑)にあって、新入社員の彼がカルガモの子どものように部隊の最後尾から必死に食らいついてきた姿を思い起こす。嬉しくて手紙を書く。一緒に闘っていた頃の写真を添付し、僕からの補助線を入れつつ・・・。

◆電通時代の後輩◇◇君への手紙

・・・前略・・・

◇◇、昇格の喜びの中、今一立ち止まり自分自身の内なる声に耳をかたむけてごらん。真空な状態の中で「内省」することからキャリア・ビジョンの道が開けていく、という真実を体感して欲しい。

経営学におけるキャリア論の大家エドガー・シャイン(Edgar H Schein)には有名な「三つの問い」がある。①自分は何が得意か。②自分はいったい何をやりたいのか。③どのようなことをやっている自分なら、意味を感じ、社会に役立っていると実感できるのか。この三つの問いを自分自身に投げかけることが、キャリアを考える基盤になる。これらの問いは①能力・才能②動機・欲求③意味・評価の自己イメージを表している。

そしてキャリア・ビジョンを“絵に描いた餅”にしないためには、どうするか。そこで必要なのが「基軸力」というエンジン。基軸力を「とことんやり抜く」ことと定義付けるならば、ブレない、途中で逃げないことに尽きる。結構しんどいけどね。

企業研修やビジネスマン対象の講演会等で申し上げることがある。組織の論理に埋もれ、個の論理を封じ込めてきた中で、今一度組織の論理から脱却し「自分はこの組織を活用して何ができるか」を徹底的に見つめ直す必要性を。そのような内省を経て、組織や後ろ盾に頼らず、自分の力でなんとかする。このような思考プロセスを経て基軸力が高まっていくのではないか!?少なくとも僕はそう確信している。

それと幾つかの言葉を噛みしめて欲しい。「ルビコン川を渡る」「背水の陣」「ポイント・オブ・ノーリターン」。これら言葉の字面を眺めていると基軸力が湧き上がってくる。ユリウス・カエサル(ジュリアス・シーザー)にとってルビコン川を渡るとは、どのような意味を持っていたのか。武装した軍団を引き連れて、ローマ本国に入ることは国禁を犯すことになる。渡り切る限りは本気の覚悟と強い意志力が問われる。「ルビコン川を渡る」というのはそういうことだ。

研修・講演会終了後の質疑応答で基軸力を高めるにはどうするか!?とよく訊かれる。僕の回答は決まっている。「厳しい、苦しい、辛い「修羅場」や「正念場」を体験し、くぐり抜けることではないでしょうか、修羅場は自ら作るもの・・・」と。

仕事においてもぎりぎりの極限状態に追い込まれると、もとい追い込まれるという“受動態”ではなく「追い込む」という能動態にこだわりたいね、時間がない中で瞬時にさまざまな判断を下すことになる。難しい局面を打開するための選択肢が複数ある場合、何かを選択すれば、それ以外の何かを手放すことになる。新しいものを手にするには、古いものを手放さなくてはならない。何かを犠牲にして、何かを獲得する。その決断のたびに、凄まじい葛藤と重圧との闘いが自分自身の中で巻き起こる。このような「トレード・オフ」を伴う場面で判断を繰り返すことによって、「指針」「よりどころ」「本質」が炙り出され、自分の「軸」が鍛え上げられていく・・・。そのような「修羅場体験」がひと皮むけた成長を促進していく。僕はそう信じてきた。否!過去形ではなく現在進行形だ。

トレード・オフ自体は何も極限状態に限ったことではない。その機会は日常生活空間に幾らでも溢れている。極論すれば日々「自己選択」と「意思決定」の連続と言える。大切なことはその場面でトレード・オフを伴う判断をしているのか否かだ。

あれもこれも欲しいでは、あまりにも幼すぎる。まずは「自立した◇◇の個」を取り戻すことだ。社内の評価を、いったん脇に置く。◇◇にとっての「真善美」を深く考える。そして「成りたい自分」に思いを馳せ、短絡的に“成れる自分”に甘んじない!と胸に刻む。

僕はビジネス上で知り得た相手に「ロールモデル」とその理由を尋ねることが多々ある。◇◇も僕と一緒に参加した会合でその場面を幾度となく見ていただろう(笑)。ロールモデルはフィクション(アニメ、ドラマ、映画、小説など)、ノンフィクション(戦国武将、世界の偉人、経営者、アスリート、親、恩師、先輩など)“ジャンル”は一切問わない。ちなみに僕の“現段階”ロールモデルは以下の通り。カギ括弧内はその理由。

夏目漱石「崇高な個人主義」、

白洲次郎「ノブレスオブリージュ」、

鈴木朗夫「逆命利君」、

佐治晴夫「リベラルアーツ」、

今北純一「孤高の挑戦」、

小山薫堂「究極のプレゼンテーター」、

サエキアキヒコ「服従の誇り」*映画「ミッドナイトイーグル」で吉田栄作演じる自衛隊員。

ロールモデルには相手が描く「成りたい自分」が投影される。そして理由を尋ねることによって、相手が現在取り組む「課題」と、目指すべき「自己哲学」までもが浮き彫りになるように感じる。◇◇も多くのロールモデルを持って欲しい。既に何回も言ってきたが・・。

・・・中略・・・

◇◇の質問に答えるなら、キャリアとは「成長と進化」を見届けるプロセスだと僕は考えている。人は意志によって自らの旅を歩む存在だ。何かを見たいという強い意志があれば、可能性は無限に拡がっていく。◇◇が「退社」というワードを口にして相談を受け、語り合ったことを懐かしく思い出す。ただ敷かれたレールの上を惰性で走るのではなく、自分自身のキャリアを真剣に考えている証だと話したことを覚えているか。あの節目を忘れるなよ。我々の体は毎日2000億もの細胞が新しく生まれ、また消滅していくという。ミクロの次元という文脈では、日々新品になり続けているということだ。だから◇◇も昨日の◇◇ではない。この「好都合な真実」を忘れることなく、新たな一歩を踏み出して欲しい。明日は今日より素晴らしい!と言いながら。

・・・後略・・・

僕は23年間の電通人生に感謝している。それは多くの知識、知恵、人脈を授かり、そして貴重な「機会」を与えられたことに対してだ。“不人気三大セクション(フジテレビ担当、朝日新聞担当、全国地方新聞社担当の地方部)”を総て経験し、“虎の穴”のごとく熾烈なブートキャンプで鍛えられたことも付け加えよう。お陰様で“怖さ”“怯え”“緊張”などに対する鈍感度が高まった(笑)。そして多くの後輩に出会えたことが嬉しい。本当の仲間は捜すのではなく、創るものだ。一緒に本気で働く以外出来得ない。“仲良しグループ”の多くは、自分に自信がない“迷える子羊たち”が、似た者同士でツルんでシマを作る防衛的な集団に過ぎない。SNSの普及はインフレ化した人脈を生み出した。地縁、血縁など人間が生活していく中で自然発生的に生まれてくる社会集団をゲマインシャフトと言う。これに対し、ある目的を持った人々が、その目的達成のために形成した社会集団、機能体組織がゲゼルシャフトだ。電通はこのゲマインシャフトとゲゼルシャフトが融合し、一方では新興宗教、秘密結社の要素も充満した摩訶不思議な組織だった思う。この点においては過去形。ただし内部では絶えず本気度を炸裂し、ビジョンをぶち挙げ、物語を紡ぐ。そのようなイズムが僕は好きだった。この点は残念ながら希薄になりつつあると感じる。
△△は新しいイズムを創造してくれ。たった一度の成功体験に安住することなく、時代という生きた文脈に仕事の流儀を晒しながら。そして次世代育成と世代継承を忘れることなく。

銀河系の彼方にいても貴兄を応援する。乾杯!

(柴田明彦)

獲物を狙うが如く眼光鋭い電通時代の柴田

獲物を狙うが如く眼光鋭い柴田は電通時代も今も変わらない

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会社員であれば60歳or 65歳で一旦キャリアのリセットボタンが否応無く押されてしまう中で、組織や年齢に左右されないキャリア構築はとても大切です。この柴田の手紙は◇◇氏に宛てものでありますが、同時にお読み下さったあなた宛ての手紙でもあります。あなたにとって何かヒントになれば幸いです。

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